スズキナオ『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』
若手飲酒シーンの大本命、「チェアリング」開祖、ウェブメディア界の真打ち、待望の初単著!
人、酒、店、旅……、現代日本に浮かび上がる疑問を調査し、記録する、ザ・ベスト・オブ・スズキナオ!
岸 政彦(社会学者)、林 雄司(「デイリーポータルZ」編集長)推薦!!
2019年11月1日
1,892円(本体1,720円)
四六判変形並製 324頁
ISBN:978-4-909048-06-6 C0095
1979年東京生まれ、大阪在住のフリーライター。
WEBサイト『デイリーポータルZ』『メシ通』などを中心に執筆中。
テクノバンド「チミドロ」のメンバーで、大阪・西九条のミニコミ書店「シカク」の広報担当も務める。
パリッコとの共著に『酒の穴』(シカク出版)、『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』(ele-king books)、『“よむ”お酒』(イースト・プレス)がある。本書が初の単著書となる。
『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』編集後記
スズキナオさんと初めて会ったのは、その後『酒場っ子』を一緒につくることになるパリッコさんと初めて会った同じ日だった。その夜のことは以前、『酒場っ子』の編集後記で書いた。
パリッコさんと本を作る中で、パリッコさんともお酒の可能性追求ユニット「酒の穴」を組み、共著もあるスズキナオさんの文章を読む機会を得た。
ある時、たまたまSNSでシェアされたお酒、ラーメン、旅に関する文章を読んでいて、書き手は意識せずに、おもしろいなあと思ってしんみり読み終わってみると、ナオさんが書いたものであるということが続いた。
パリッコさんが監修を務めていた雑誌『酒場人』の創刊号(2016年1月)で読んだ「大阪の瓶ビールはどこまで安い?」という文章もずっと印象に残っていた。あとから思うと、それもナオさんの文章だった。
この本の表題作である「深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと」をウェブで読んだのも誰かのシェアだった。大きな、衝撃的な、という形容の似合わない、静かな、重くはないけど体にスーッと入ってくるような感動をおぼえた。
その後、パリッコさんのイベントなどでもときどきナオさんにお目にかかるようになり、会話をした時やLINEで、読んだ文章の感想を言葉少なに伝えるようになった。
今年(2019年)の春、UR都市機構のウェブサイトに掲載されたナオさんの日記を読んだ。いつものように、静かな感動が自分の中に広がり、LINEで短い感想を送った。その時、「ナオさんの本をつくりたい」という想いが、ふと浮かんだ。あちこちで書かれていた、あらゆるジャンルの文章を選んだ、ベストオブスズキナオのような本が読みたいと思った。今、「あらゆるジャンルの文章」と書いたが、ジャンルは多岐にわたっているが、それらは全部同じことを書いている気がした。
1ヶ月ほど経ち、ナオさんの本をつくりたい気持ちが自分の中でどんどん強くなり、意を決し、LINEで伝えた。ナオさんは快諾してくれた。それから半年も経たないうちに、こうして本にすることができた。
本書に収録されたいちばん古い文章は2012年に書かれたものだ(「名前のないラーメンを探して」)。結果的にここ数年の間に書かれた文章が多くを占めることになったが、書いていることは今とまったく変わらないように思える。
この10年の間にナオさんが書かれた文章は、本書に収録できたものの何倍も量があり、捨てがたいものもたくさんあった。先の日記も、本書には入っていない。様々な媒体に書かれた文章を、ナオさんは今年の夏、一冊にするため、丁寧に細かく手を入れてくれた。
本にする課程で、ナオさんの文章を何度も読んだ。何度読んでもおもしろかった。
村上龍の『69-sixty nine-』という本を高校生の時に読んでから好きで、特にそのあとがき言葉は、今に至るまで、自分の生きるための指針となっている。
「これは楽しい小説である。こんなに楽しい小説を書くことはこの先もうないだろうと思いながら書いた。
この小説に登場するのはほとんど実在の人物ばかりだが、当時楽しんで生きていた人のことは良く、楽しんで生きていなかった人のことは徹底的に悪く書いた。
楽しんで生きないのは、罪なことだ。わたしは、高校時代にわたしを傷つけた教師のことを今でも忘れていない。
数少ない例外の教師を除いて、彼らは本当に大切なものをわたしから奪おうとした。
彼らは人間を家畜へと変える仕事を飽きず続ける『退屈』の象徴だった。
そんな状況は今でも変わっていないし、もっとひどくなっているはずだ。
だが、いつの時代にあっても、教師や刑事という権力の手先は手強いものだ。
彼らをただ殴っても結局こちらが損をすることになる。
唯一の復しゅうの方法は、彼らよりも楽しく生きることだと思う。
楽しく生きるためにはエネルギーがいる。
戦いである。
わたしはその戦いを今も続けている。
退屈な連中に自分の笑い声を聞かせてやるための戦いは死ぬまで終わることがないだろう」
(村上龍『69 sixty-nine』「あとがき」)
スズキナオさんの文章にも楽しさが満ちている。楽しさを最優先してなんでもない日常を生きている。しかし、その楽しさの先に敵はいない。戦いという感じもしないし、復讐という言葉も似合わない。退屈は、時には寄り添うものにもなり得るのではないかと、今は思う。
「まあ、まだまだ楽しいことはあるよな」
(スズキナオ『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』「まえがき」)
この本を世の中に届けることができて、本当に嬉しい。
2019年10月31日 朝 森山裕之